幸せになろう
慎一は、壊れた模型を修復するのに疲れて、そのまま寝込んでしまっていた。
慎一さん、貴方にはまた余計な事をしてと、怒られるかもしれません。
でも私は、このままにはしておけません。
本当にごめんなさい。もう一度だけ力を使わせて下さい。
エレーナは、眠っている慎一の体に手を触れた。
感じます。慎一さんの願いを……
模型を元どおりに修復したいという、貴方の強い願いが私の中に入ってきます。
願いを感じ取ったエレーナが、
「願い成就!」と静かに唱えると、
慎一の建築模型は、完全に元どおりに修復された。
ドアの陰から、ひそかにさやかがその光景を見守っていた。

 夜が明けた。
目を覚ました慎一の前に模型が置いてある。
しかも完全に元どおりに直っている。
「あれ? 模型、直っている。
エレーナ、これはどういうことだ。天使の力を使うなとあれほど言ったのに」
「あの、これは…その…」
エレーナはどうしていいのか分からなくて、オロオロする。
「これを直したのは私なの」
突然、さやかが話に割り込んできた。
「さやかさん?」
さやかの方を振り返るエレーナ。
「エレーナさん、あとは、私に任せておいて」
さやかはエレーナにそっとささやいた。
「慎一、勝手な事をしてごめん。でもエレーナから事情を聴いたら、姉ちゃん放っておけなくて。
怒るならエレーナではなく私を叱って」
「姉さんが?」
慎一はしばらく考え込んだ。それから、
「姉さんが直したのならいい」と、それ以上追及しなかった。
慎一は、本当の事を全て知っていた。
エレーナが能力を使って模型を直したのも、さやかがとっさに利点を利かせてエレーナをかばったのも。
あの時、なぜか慎一の目は覚めていた。
おぼろげながら模型を直すエレーナの姿を見ていたのだ。
「姉さん、ありがとう」
慎一はただ、姉のさりげない優しさが嬉しかったのだ。


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