幸せになろう
貧乏人は治る病で死ぬのさ。
どうせ生きていたって、今よりもっと不幸になることは確実なんだ。
俺に将来はない。これ以上不幸になる前に、死んだほうが幸せだ」
「そんな……」
彼は死なせてくれと何度もせがみました。
「じゃあ、貴方はどうして私を召喚したんですか?」
「俺の家は、代々天使召喚術を受け継ぐ家系だ。
親父も祖父もそうだ。だから俺も親父から天使召喚術を習った。
しかし、親父達は天使召喚術を使った事はなかった。
必要がなかったんだ。親父達は、人並みに幸せだったからな。
だが、俺はそういう訳にはいかなかった。
俺の将来を心配した親父達が天使を召喚するように勧めた。
半信半疑だった。本当に天使を呼び出せるとは思わなかった」
そこで、私は提案したんです。
「じゃあ、こうしましょう。私が貴方の病気を治すというのはどうですか?」
「そんなことが出来るのかよ? さっき出来ないって言っていたじゃないか」
「あれは、貴方が無理な要求をしたからです。今度は出来ます。
貴方の病気、治してあげます。どんな病気かお聞かせ願えますか?」
「そんな事言える訳ないだろ、他人には言えない事だってあるんだよ」
彼は拒みました。
「病気の種類が分からなければ治せません」
「医者みたいなこと言うな。何でも出来るって言ったじゃないか。
俺の病気なんてそんなの人には言えねーよ」
 その時でした。
「何だ々、トラブルか?」
そこへ現れたのは、ジェシー・クリスタルさん。
「契約がうまくいっていないようなので様子を見に来た」
「誰、この人?」 
「天上界の契約管理官のジェシー・クリスタルさんです」
「契約管理官? 何それ?」
「不正や、不適切契約がないか監視し、契約上のトラブルを解決するのが
契約管理官の仕事です。
契約者に関する情報は、全て天上界の契約管理システムに記録されます。
契約した人の経歴、契約内容、その人が過去にどのような不幸にあったかなどが、
記録されます。もし、何かあったときは、原因究明のため、
契約者の精神状態まで分析出来るようになっています」
私が契約管理官について解説すると、
「それじゃ、俺の病名まで分かるのか?」
「調べれば分かる」
彼はジェーシーさんの言葉にひどく慌てました。
「ジェシーさん、せっかく来てくれたのですから、直純さんの病気について
 調べてもらえませんか?
直純さんが、病名を教えてくれないので治せないんです」


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