幸せになろう
第18話 世間知らずな契約
 天上界では、慎一の人気が高まり、彼とエレーナは、ベスト契約関係として
天使達のあこがれになっているようだ。
そのせいか、天上界からの訪問者がよく来る。
そのほとんどは、契約に関する相談だった。
契約管理システムが改善され、天使召喚術のみならず、自由契約が出来るように
なったからだ。
 今日もエレーナの友人達が来た。
「私達は、契約の自由化で相手を選べるようになってから、人間界に来て
契約者にふさわしい人を探すようになったの。
でも、なかなか契約が成立しなくて……」
天使1は溜息をついた。
「不幸そうな人はよく見かけるんだけど、話掛けても無視されたり、逃げられたり、
中には怒り出す人もいて……」と、天使2。
「どんなふうに話かけているの?」
慎一は一応聞いてみる。
天使3はすかさずこう答えた。
「貴方は今、不幸じゃありませんか? 私達と契約すれば、貴方の願いを叶えます。
 どんな不幸も取り除きますって」
慎一は「ハー」と天使達よりも大きな溜息をついた。
やっぱりそうかと思った。
「それじゃ無視されたり、逃げられて当然だ。
見ず知らずの人に、突然貴方は不幸ですなんて言われたら、誰だって不審に思うよ。
本当に不幸な人だったら、ぶち切れちゃうかもな」
どうやら彼女達は契約者獲得に苦戦しているようだ。
今までは、天使召喚術によって呼び出されるのをただ待つだけだった。
それが、人間界に来て自分で契約者を探すようになった。
いわば営業活動。だが、天使達は今まで営業活動などしたことがない。
その彼女たちが慣れない売り込みをしている。
しかもその内容は普通の売り込みとは違う、不幸を取り除くという極めて特異なものだ。
そう簡単に出来るものではない。
何をするにも能力だけに頼ってきた天使達にとって、人間界に来て初めて経験する
努力というもんだろう。
天使1「じゃあ、どうすればいいの?」
慎一「契約者の知人を紹介してもらったらどうだ?
既に契約済の天使を通して紹介してもらうのもよい。
人間界では、斡旋とか口利きというやつだ。
契約者から知人に君達の情報が行くだろうし、話が早い。そのほうが、より確実だ」
天使2「では、慎一さんの知り合いを紹介して下さい」
慎一は少し考えてから、
「あっ、一人だけいた。俺の従妹で持田夏穂ちゃんって娘がいる。
あの娘、俺に天使がついているのを羨ましがっていたな」

< 86 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop