幸せになろう
「あなたのせいで大騒ぎよ。これ以上病院に迷惑をかけないうちに帰るわよ」
「私は何も迷惑はかけていません。患者さんも家族も喜んでくれています。
だからもっとみんなを救うんです」
先輩天使2が説得するものの、ルーシーは強く拒んだ。
 慎一達は、嫌がるルーシーを無理やり連れ帰った。
「私は、患者さん達の願いを叶えていただけです。病気や怪我が治ったって、
みんなに喜ばれました」
「人助けは、すればいいってもんじゃないんだ。
君のやったことは、人間社会の仕組みを壊すものだ」
一見おおげさなようだが、慎一がそこまで言うからには、それなりの理由があった。
「君が、天使の力で病気や怪我を治せば、病院はいらなくなる。
そうすれば、医療関係者の仕事を奪うことになる。彼らは、患者を治療することで
生活している。君が余計な事をすれば、彼らの生活を壊すだけだ」
「じゃあ、医療関係者のために人助けをしては、いけないんですか?」
「君に全ての人を救えるのか? 中途半端な事をして患者が減って病院がつぶれれば、
将来的にかえって大勢の人が死ぬ。
人間は、長年苦労して病気や怪我を克服してきた。でも
君のやったことは、人間の努力を、医療そのものを、根底から否定するものだ」
ふたりは激論を交わしたが、慎一の厳しい指摘にルーシーは反論しきれなくなった。
「いったい何人救ったの?」先輩天使1が恐る恐る聞いた。
「50人ぐらいです」
その場に居た一同は大変驚いた。
エレーナ「そんなにたくさん?」
「これは、俺の個人的な考えだが、人間の寿命をむやみに延ばすことはまずい。
死ぬはずだった人間が生き長らえれば、いろいろと影響が出てくる。
将来結婚する相手や産まれてくる子供が変わってしまったり、本来受験できないはずの
人が受かって、別な人が落ちたり。全くその人と関係ない人にまで影響をもたらす。
政治、経済など世の中全体、さらには歴史そのものまでも大きく変えてしまう。
だから人間の寿命は、変えるべきじゃない」
慎一は、これらの考えからむやみな延命を否定した。
「そう言えば、天上界の規則に、人間の寿命をむやみに変えてはいけないというのが
あるわ。理由は、慎一と同じ考え方からよ」さやかが思い出した。
「それなら私も知っています」エレーナも同調した。
「そんな規則があるんだったら、なぜ逆らってまで大勢救った?」
慎一はルーシーを問いただす。



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