幸せになろう
慎一さんの幸せを奪わないで下さい」
エレーナも懸命に頼み込むが、
「今の慎一は無職だ。俺の仕事を手伝えば、収入はあるし生活も安定する。
お前らといるよりもずっと幸せになれる。慎一は俺と一緒に来るんだ」
総一郎は譲らぬ。彼は、無理やり慎一の腕をつかんだ。
「もうやめて、私が悪いんでしょ? 私の死をめぐってお父さん達と慎一は
争うようになったっていうじゃない。でも私は、こうして戻ってきた。
だから、もう慎一にあたる理由はないでしょう?
もう慎一を苦しめないで。じゃないと私、本気で怒るから。
たとえ、お父さん、お母さんでも絶対に許さない」
さやかは両親を睨みつけた。彼女の周りだけ、かすかに風が吹き、嵐の前の静けさのようだ。
さやかが天使の能力で風を吹かせている。だがそんな事とは知らない総一郎は、
さやかに恐れを感じはじめた。
それでも、総一郎は強硬な態度を変えず、さやかの髪の毛をつかんで頭を押さえつけた。
「それが、久しぶりに会った親に対する言葉なのか! お前に慎一の何が分かる。
思い上がりもいい加減にしろ!」
「父さん、やめろ!」
「さやかさん」
慎一とエレーナが止めに入った。
「姉さんにまで手を出すな」
「だったら、俺の言う事を聞け!」
「嫌だ。俺は、姉さんやエレーナと3人で暮らすんだ。父さんには協力出来ない」
「お前、この場に及んでまだそう言うか!」
総一郎は慎一を殴り飛ばした。
慎一の口から血が流れ出てた。
「慎一さん、口から血が出ています」
エレーナは、心配するが、
「俺なら平気だ。それより姉さんが」
総一郎はさらに強く、さやかを押さえつけた。
「父さん、もうやめろ。姉さんは幽霊なんだ。
幽霊を傷つけたら成仏出来なくなるって聞いたことがある。
そしたら、姉さんは悪霊と化して、永久に人間界をさまよわなくてはならないそうだ。
姉さんがそんなふうになってもいいのか」
「うるさい、そんな話誰が信じるか!」
その時、さやかの体から光が出始めた。光は天使の身を護るための結界で、
敵対する者をはね返す。
「何だこの光は?」
バーン! 突然、総一郎は勢い良く吹き飛ばされた。
「痛てっ、何だ今のは?」
「総一郎さん」和江が総一郎を抱きかかえた。
さやかが静かに宙に浮き、光輝いている。
「もう許さない。慎一やエレーナさんを傷つける人は、たとえお父さんであろうと許さない」
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