幸せになろう
普段優しく、怒ったことのないさやかが、神のげきりんにでも触れたかのようになった。
「この光も、俺を吹っ飛ばしたのもお前がやったのか?」
結界の事などを知らない総一郎は、さやかに向かって行った。そのまま殴りかかろうとしたが、
逆に結界に跳ね返された。
「父さん、もうやめた方がいい。今の姉さんにはかなわない。これが幽霊の力なんだ。
これ以上姉さんを怒らせたら、父さんだってただじゃ済まされない」
総一郎は、慎一やさやかの言う事をようやく本気にしたのか、それ以上手出しをしなくなった。
「もういい。勝手にしろ! お前のことなんか知らんからな!」
総一郎は帰って行った。
「姉さん、すごい演技だったな。幽霊のふりをするなんて」
「慎一こそ、いいフォローだったわよ」
さやか、慎一姉弟は、なんとかその場を切り抜けたのだった。
「慎一さん、怪我は大丈夫ですか。今、手当てしますから」
エレーナは慎一の手当をした。

 和江は、総一郎について行かず、帰らなかった。
そのまま、家に泊まった。それからもしばらく家にいた。
毎日独りで物思いにふけっているようで、何時までも帰る気配がない。
「母さん、何で帰らないのかな?」
「お母さん、寂しそうですね。それに顔色も悪いですし。
どこか具合でも悪いのでしょうか?
慎一さん、お母さんに話掛けてはどうですか?」 
「そう言われても何をしゃべっていいのか分からない。お母さんとは、あまり話した事ないし……」
エレーナに和江と話すよう勧められるものの、躊躇う慎一。
「私には、お母さんは慎一さんが思っているような嫌な人には思えません」
エレーナは以外な見方をした。
「どうしてそんなふうに思えるんだよ。自由気ままな生活をして、父さんのいいなりになるだけなのに」
慎一はどうしても和江と話す気にはなれない。
「私も今ならそう思う。再会した時は気づかなかったけれど、私達天使は感じるの。
あの人の深い悲しみが」
さやかもまた、和江が発する思いを感じ取っていた。
「あの、慎一さんのお母さん」
エレーナは、和江に話掛けてみた。
「貴方は、エレーナ・フローレンスさんでしたよね? 慎一とはうまくやっているの?」
「はい、うまくやっています」
「私達は仲良くやってるよね」
さやかは慎一とエレーナに目をやった。。
「それより、慎一さんと話さなくていいんですか?」
「私は、慎一に嫌われているから。私とは口利きたくないだろうし……
私が悪いのよね」
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