幸せになろう
和江は、寂しそうに窓の外を見つめる。
「貴方にも辛い思いをいっぱいさせてごめんなさい。
さやかが幽霊になってしまったのも私達のせいだし……」
和江は、さやかに詫びる。でも、さやかは両親を恨んでいなかった。
「私が幽霊になったのは、別にお母さんのせいだなんて思ってないよ。
こうして慎一やお母さんと再会出来たし、今はそれでいいと思っているよ」
「さやか……」
慎一は、黙って3人のやり取りを聴いていた。
「私ね、疲れちゃった。もうお父さんにはついていけない。
昔はあんな人じゃなかったのにね。
私が初めて総一郎さんと出会ったのは、今から30年ほど前。あの人は夢を熱く語る人だった。
将来に大きな夢を持っていて、いつも私に話してくれた。
そんな総一郎さんにいつしか惹かれていった。
あの人のそばにいて支えてあげたい、そう思ったから結婚したの。
 でも慎一が産まれた頃から、総一郎さんは変わった。
どんどん出世して、仕事に夢中になって、ほとんど家に帰って来なくなった。
まるで人が変わったかのように仕事にとりつかれていった。
寂しかった。しばらくは我慢した。でもそのうち我慢出来なくなった。
私は、中学生になったさやかに慎一のことを任せて、総一郎さんのところへ行った。
でも、久しぶりに再会したあの人はまるで別人だった。
私のことなどほとんど相手にする暇がなかった。寂しかった。
そのうち一緒にいるのが辛くなって、別居した。
私は、自分の好きなことをやりたいから、一人暮らしをしたいと言った。
でもそれは、総一郎さんの気を引くため。総一郎さんがあっさりと許してくれたのは
以外だった。本当は引きとめて欲しかった。
あの人のそばにいたかった。でも居づらかった。
だから、近くで一人暮らしをしながら、総一郎さんを見守り続けた。
生活費は総一郎さんが全部出してくれた」
 その時、
「そんな話うそだ。そんなの信じられるかよ。だって母さんは、やりたい放題自由気ままな
生活をしていたじゃないか。高い物を買いあさって身に着けたりしていたじゃないか」
今まで、黙って話を聞いていた慎一が突然強く反論した。
「別に贅沢したかった訳じゃないの。
ただ、時々高い物を買っては、それで自分を慰めていたの。
総一郎さんはたくさんお金をくれた。
あの人はいつの間にか、お金でしか愛情表現を出来なくなっていた。
これがあの人なりの精一杯の愛情なんだって自分に言い聞かせるしかなかった。
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