愛ダイエット
愛のあるうちにさようならを
「僕といかないか?」
「どっとこへ?」
いきなり切り出されたマリは驚きと喜びと不安が入り混じった複雑な表情で彼を見た。
卒業まで後、数日だ。彼は単なるクラスメイトだったが、
先日のあの・・クラブ壮行会のピアノはとても素敵だった。
それも自分を見つめて弾む指は鍵盤を通り越して抱きすくめられるようにさえ感じた。
「あっ・・・いや・・強引だよね?」
「いきなりなによ、君らしくないわ」
「うん・・じゃっその君はやめて、浩介と呼んでくれないか?」
マリは、はっとした。そういえば今まで彼を名前で呼んだこともない。
それほどの関係だったと改めて思いかえした。
「そうだったわね、浩介かあ・・いい名前ね、こ・う・す・け」
マリが少しおどけた様子で浩介に言うと浩介は見つめたまま軽く頷いてみせた。
「うん、ありがとう・・さようなら」
マリと浩介との会話はそれっきりで翌日、彼は登校してこなかった。
彼は家庭の事情とやらで、海外へ旅立っていったのだ。
そして数年後の文化祭のある日、
あの同じ教室で同じ香りのする机と椅子に触れると思い出の浩介が笑って迎えてくれた。