クリムゾンフレイヤ
Opening

「イヤァァァア!!」


静かな夜の森に響き渡った一つの悲鳴に、狼でさえ驚いて身体を引っ込めた。

いや、引っ込めた理由は別に……一人の女性が悲鳴を上げながら猛スピードで向かって来たせいだろう。


「ゴラッ! 待ちやがれこの小娘が!!」


その後ろからは、これまた寺小姓かと思わせるほどの坊主頭をした男が、たいまつ片手に大勢雪崩来たのを見て、狼は飛び上がり一目散に逃げ出す。


それほど男たちの怒りの圧力は恐ろしかった。


「あぁんもう! たかが金貨100枚程度で……!」

「お前の金銭感覚はどうなってやがんだよ!?」


もう少しで追い付かれるか、そんな土段場で愚痴った女性に、さすがの男たちも驚いてツッコミを入れる。

だが、そんな頭を一発叩いて済む金額ではあるまい。

金貨1枚で飯屋の料理が、安く済ませば10日は持つほどの価値。

それが100枚となれば、話は別だろう。


「いい加減待ちやがれ!!」

さすがに足も疲れてきた辺りで、再び制止を掛ける男たちに、女性は諦めることなく逃げる。

ひたすら逃げる。

……が、それもここまでのようであった。


「うっそ……っ!」


勢い余って足を踏み出す前に身体を止めた女性は、息を飲んで下を見下ろす。

崖だ。

落ちれば勿論一溜まりもないほどの、断崖絶壁の崖。



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