クリムゾンフレイヤ
後ろからか。
そう言えば、逃げたのは三人だったな……と、呑気にしている自分が凄いと思ったが、さすがにヤバイ。
「死ねぇぇぇえぃ!!」
鼓膜が破れるのではないかと疑いたくなるような叫びにも似た奇声に、スカーレットは息を飲んだ。
その瞬間、後は身体が勝手に動き出す。
「風剣《カザツルギ》!」
少しでも振り下ろされる刃を遠ざけるためにしゃがみ込んだスカーレットの頭上で、声と共に風が通り抜けた。
若い、ちょっとやる気のないような……けど真剣さが伝わるその声の主を、彼女は見上げる。
「冒険……者?」
「グァアッ!?」
スカーレットの疑問に満ちた呟きと同時に、後ろにいた男が重い悲鳴を上げてよろめく。
そこを躊躇なしに男の切り裂いた腹目掛けて、青年は勢いよく蹴り飛ばした。
「……あーあ、終わった」
蹴り飛ばした男が派手に遠くまで飛んでいったのを確認した青年は、短い跳ねっけのある茶の前髪を押さえて息をついた。
「ア、アンタ……」
「ん? なんだその顔は? おっ、もしかして惚れた? 惚れただろマジで?」
スカーレットの眉をひそめて見上げてくるのに対し、青年はヒャッヒャッ、と笑って前髪を掻き上げる。
が、そんな嬉しそうにバカなことを言う青年に、スカーレットの言葉が玉砕した。
「……アンタ……そんなに格好よくないわね。ガッカリ」
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