春•夏•秋•冬の彼等
『あ?』
『なに言ってんの、お前』


そんな春樹を先輩たちはバカにしたように笑って言った。


『何がっていうか、存在自体がうぜぇんだよ』
『チビのくせによー』
『見てるだけでむしゃくしゃするっつーの』


人懐っこい性格をしているってこともカンに触るらしい。

誰からも好かれて、それでいてレギュラーになってしまったから心狭い先輩たちの標的にされてしまったのだ。


そしてもう一度一人の先輩がラケットを振り上げた。

春樹は反射的にバッと右手で頭を隠すようにしてカバッた。


けど、痛みを感じなかったから不思議に思ってゆっくり目を開けてみると、ラケットは目の前で止まっていた。


『え…』


茶髪の女の子が左腕でラケットを止めていたのだ。


『ふざけんじゃねぇぞ、こら』


短パンにTシャツを着ていて、長い靴下に膝サポーターを足首に下ろしているその姿は、どう見てもバレー部員。


『存在自体がうざいって?チビだからいけないって?はっ。調子乗ってんのはどっちだよ』


女の子はラケットを奪い取って男子たちに突きつけた。


『スポーツマンが大事なラケットで人殴って良いわけ?自分が負けた腹いせをこの子にぶつけんの?』
『お前には関係ないだろ!』
『あーないね。だったらあんたらがこの子イジめる理由だってこの子には関係ないだろ!』


男子相手に怖じ気づく気配すらなく、それどころかいつも憎まれ口を叩く先輩たちがたじろっている。


『見苦しいんだよ!正々堂々やって勝てないからってこんな卑怯なマネすんじゃねぇ!』
『なっ…』
『傷つけてるあんたらはこんなことすぐに忘れるんだろうけど、傷つけられた方は一生癒えない傷を背負っていくんだよ!』


まだ何か言おうとしていると、誰かが『夏実?!あんた何やってんの?!』と夏実を連れ戻しに来た。

知らぬまに人が集まってきていて、そのうち春樹たちの部長たちも『どうかしたのか?!』と走って戻ってくる始末。


『部長〜。だってこいつらがねー』
『もぅ!問題起こすんじゃないの!それも他校と!』


部長らしきその人は夏実をグイグイ引っ張っていく。


『え〜っちょっと待ってくださいよ!』


夏実は必死に立ち止まろうとしたが思うようにいかず、終いには春樹に向かって叫んだ。


『あんたも!黙ってるだけじゃ何も変わらないよ!言いたいことがあるなら言いな!あたしだってチビだしまだ1年だけどエースであることに誇り持ってるよ!』


叫び続ける夏実に部長が『こらっ』とグーで頭をこずいた。

夏実は『あだっ』と変な声を出してイヒヒと笑った。



そのとき、春樹の中で何かが変わった。


自分と同じで身長低くてまだ入部したばかりなのに彼女はあんなにも堂々としている。

そのことに、何とも言えない憤りを感じたのだろう。


『おいっ、お前らまた…』


部長がレギュラー陣に詰め寄った。

そんな部長に春樹は、待ってくださいと声をかけた。


『先輩、俺このくらいのことじゃ絶対負けませんから』


春樹はそれだけ言って再びストレッチに戻った。

先輩たちは何も言えず悔しそうな顔をした。


もう大丈夫…何に確信を持ったのか分からないが、春樹はそう思った。


その後嫌がらせはなくなり、春樹は順調に勝ち続けてそのうち部長になった。

スポーツ推薦で高校に上がって、そうして3年ぶりに夏実に再会した。

夏実が覚えているかは分からないが、少なくとも春樹は夏実のことを一日たりとも忘れはしなかった。


中学と名前と部活しか知らなかったけど、それでも春樹は初めて自分に向かいあってくれた夏実に惹かれていた。

同じ高校だと知ったとき、どれだけ嬉しかったかは言うまでもないだろう。



「なーつみっ!」


春樹は声を上げた。


「ん?」


新発売の炭酸飲料をシャカシャカ振って、振り向いた夏実目掛けて蓋を開けた。

プシュッという音と、
「ぅわっ!」という夏実の声。


「はーるーき〜!もぅなにすんのよ!ベトベトじゃん!」



君といることが


嬉しくて仕方なくて。





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