日常の奇跡
いつもの駅
章子の大学は23区内でも緑の

豊かな場所にそびえている。

一流ではないものの、名は知れ

ている大学であった。

彼女はそこの法学部に現役で入

学した。

最初の1年はあっという間にす

ぎ、2年目では余裕も生まれ、

勉学以外のことにも精を出すこ

とができた。

3年はゼミで躍起になり、そし

て4年となった今、最もいろい

ろな事を考える時期となった。

将来のこと、今までのこと―。

そんな中、悩み、考えた挙句、

彼女は180度以上回転してし

まいそうな勢いの日常に、正直

好奇心とそして優越感を抱いて

いた。


それは、日常の中での出来事だ

った。






いつもの電車の中で、視線を動

かすと正面の3人がけの席の一

番端に見知った顔を見つけた。

とは言え、知り合いではない。

毎日同じ時間帯に通学するもの

だから、自然と電車も同じ時間

のものに乗ることが多い。

そんな中でここしばらく、同じ

人物がよく視界に入る。


その人物は社会人だろうが、ス

ーツも着ていなければネクタイ


も締めていなかった。

それでも学生には見えない。

座っていて、正確なところはよ

くわからないが恐らく長身だろ

う。学生だったころの名残が抜

けないのか髪が少しだけ茶色い。

そんな男ならばどこにでもいそ

うだが、章子の目を引いたのは

その男の目だった。



眼鏡に隠されてはいるが、志の

強そうな瞳……。

切れ長で少し怖そうな印象をう

ける。

その瞳は手元の新聞をおってい

た。

そんな格好と新聞のアンバラン

スさも彼女の目を引いた。

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