日常の奇跡
はじめて
都会生まれ都会育ちの章子は、

電車が10分おきにしか来ないと

いうローカル線にため息をつい

た。


本日は自主休校で、買い物に行

ったのだが、中央線は常々混む。

それを身をもって体験している

ので、彼女はいつもと違うロー

カル線を利用し行くことにした。

その思考が限りなく自分の日常

を変化させるために働いたもの

だと知ったのは、ガラガラの車

内でぼんやりと窓の外を見てい

たときだった。





あまり人の乗り降りのない駅で

長身が乗り込んできた。

「……!!」

次の瞬間、章子は息をのんだ。

―――――あの人だ。

いつものようにラフな格好をし

ている。

間違いない。

彼女があの人を見間違えるわけ

がない。

偶然とは必然の中にあり、何か

しらの意味を含んでいる。

それを最大限に利用してこそ、

奇跡は起こるのだ。




そして奇跡は起きた。




………男の後に続くようにして、

一人の細身の女性が電車に乗り

込んできたのだ。

「やっぱりこっちの方が空いて

る。よかったね、和ちゃん」

< 4 / 12 >

この作品をシェア

pagetop