夏の月夜と狐のいろ。
「シアン・・・!!」
かすれた声で、そう呟く。
目の前で倒れこむシアンを前に、魔術師たちは嬉しそうに踊り狂う。
頬に、涙が伝う。
シアンが一度朦朧とした目でこっちを見て、そのまま目を閉じた。
「助けられなかった・・・!」
ノエルは歯を食いしばってふらふらとシアンのそばへ近づいた。
すると誰かにそれを手で制される。
「ノエル、先に帰っていなさい。我々はこの獣たちをラシッド様にお届けせねばならないのだ」
ノエルは父につかみかかって、憎しみに満ちた目で睨みつけた。
父は、ただゆるやかな笑みを浮かべている。
ノエルはそのまま父を睨みつけ続けながら手を離し、シアンの前に立った。
「連れて行かせない・・・!」
ノエルがうなるようにそういうと父はため息をついて、首を振った。
「それはできない。さあ、どきなさい。
お前は優秀な魔術師になる素質があるのだ、大人しくしていなさい。」
ノエルの体がふわりと浮かび上がる。
父の魔術だ。対抗しようとしたが、自分は今魔術の本を持っていないことに気がつく。
「なんでもってこなかった・・・!」
自分に対する怒りをぶちまけるが、どうしようもなかった。
ただ、運ばれていくシアンを無力に見つめる事しかノエルにはできなかった。