夏の月夜と狐のいろ。
部屋の中は、生活感があまりない感じだった。
必要最低限だけの家具がおいてあり、そのうちのひとつのベッドにノエルは寝かされた。
青年は黙ったまま、ノエルの足を治療している。
「あの・・・」
沈黙に耐え切れなくなってシアンが小さく呼びかけると、青年は振り向くことなく低い声で答えた。
「・・・なんだ」
その様子と、雰囲気はまるで獣のようだ。
シアンが何も言えずにそのまま黙り込んでいると、治療を終えたらしく青年が立ち上がった。
そして、漆黒の瞳を冷たく揺らして言い放つ。
「この人間が目を覚ましたら、すぐに出て行け・・・俺は人間が嫌いだ。」
その言い方はまるで、自分は人間ではないと言っているようだ。
同じことをおもったのか、横でクロが立ちあがった。
「何を言ってるんだ?お前も人間だろう?」
クロがそう言った瞬間、青年は首を振る。
そして、遠くを見つめるような目をして言った。
「きいてどうするんだ。怯えられるのも、傷つけられるのももう散々だ」
シアンも、立ちあがった。
この人は人間じゃないわ!
心の中にそんな思いがむくむくと広がった。
そしてシアンはやめておけ、と視線を送ってくるクロを無視してローブを脱いだ。
「私、人間じゃない」