夏の月夜と狐のいろ。
一晩過ごして、シアン達は森を出た。
あのあと探し回ったけれど、人間の落としていった小さな小瓶以外は何も見つけることはできなかった。
正直森を出るのは嫌だ。
けれどこれ以上森にいると、また人間がやってきてここを荒らすかもしれない。
それに、捕らえられたお父様が心配でじっとはしていられなかった。
「・・・もういいの?」
横でノエルが心配そうに聞いてくれた。
シアンは後方にむけた視線を無理やり前に戻して頷く。
「うん、いいの。はやくお父様を助けないと」
森にいつまでも居ちゃいけない。
シアンは肩に乗るリリィを撫でながら前に進んだ。
外に出たことがなかったシアンは知らなかったが、この森のまわりは砂漠だった。
この森に帰ってくるときも砂漠を歩いてきたけれどその方向以外もすべて砂漠に包まれている。
そして、唯一砂漠が切り開かれ、町になっているところがある。
そこが、ノエルの住んでいた町。
森の一番端の木に腰掛けるとその町に一望できて、よくそこでノエルが来るのを待っていた。
人間の、いる町。
そこ以外に手がかりがありそうな場所はない。
シアンはちらっとノエルを見た。
ノエルはシアンを助けにくるために他の魔術師たちを捨ててあの町を出たのだ。
だから、ノエルは、あの町にもう入りたくないかもしれない。
無理してついてきてくれようとしているかもしれないと思うと、シアンは不安でいっぱいになった。