夏の月夜と狐のいろ。
「知ってたのね。でも私のことは内緒よ!」
シアンが笑うと、ノエルはもちろんと頷く。
そしていつものようにお菓子を差し出した。
「はい、これ。クッキーだよ。
あと、その髪飾りつけてくれてるんだね、ありがとう」
シアンはお菓子をうけとり、ほおばる。
甘い風味が口に広がった。
シアンはこのお菓子が一番好きだった。
その大好きなお菓子をほおばりながら、シアンは頷く。
「うん、つけてるよ。お気に入りなのよ、すっかり!」
ノエルはよかった、といってまたやさしく撫でてくれた。
ノエルのあたたかい手になでられるのは今日がはじめてだけれど
それはとてもやさしくて、一瞬で好きになった。
しばらくすると、いつの間にか時間が流れていた。
シアンが立ち上がると、ノエルも立ち上がる。
「そろそろ時間?」
シアンは頷いた。
「それじゃあ、また明日ね。俺も今日は帰るよ」
ノエルがそう言って、微笑んだ。
シアンも同じように微笑んだ。
「うん、また明日ね!」
当たり前のように、いつものようにした約束。
けれど、その次の日は、もう会えないことをシアンもノエルも
このときは、まったく知らなかった。