夏の月夜と狐のいろ。
「お父様!!」
シアンがそう叫ぶと、お父様はすぐに振り向いた。
そして、九本の尾のうちの一本をさっと動かし、
シアンに何かを投げた。
それは、ばさりとシアンの頭の上に落ちた。
白いローブのようだ。
「お父様、これは?」
シアンがそうたずねると
お父様は青い瞳をつらそうにゆらしながら言う。
『お前はここから逃げろ。九尾狐だとばれてはいけない。
人間に化けて、それをかぶって逃げるんだ・・・得意だろう?』
お父様は冗談めかしてそう、最後につけくわえる。
けれどそのお父様の瞳は焦りと真剣さがあふれていた。
「お父様は?お父様は逃げないの!?」
シアンが叫ぶと、お父様はぞろりとするどい歯をのぞかせて笑った。
『大丈夫だ。ここで人間を倒す。
お前が死ぬとすべておわりなんだ、たのむ、逃げてくれ。』
―私が死ぬとおわり?
そこがひっかかったけれど、尋ねる前にお父様は
尻尾をばさりと振り払い、シアンを飛ばした。
シアンはくるくるまわりながらとばされ、
たちまちお父様と距離が離れてしまった。