夏の月夜と狐のいろ。
お父様が、毛をぶわりと逆立てたのが見えた。
逆立った九本の尾はするどく、特殊に尖った。
いつもの美しい毛並みの銀色から、刃物にもにた銀色にかわる。
そこに人間がせめてきた。
全員が黒いローブをはおり、顔はみえないが
全員はぐるりとお父様のまわりに集まった。
お父様はたちまち尻尾で人間たちをなぎ払う。
巨大な獣の前に、人間はおそろしく弱かった。
半数の人間が、一瞬にして倒れる。
お父様は余裕そうにあたりをにらみつけた。
けれど、すぐに後ろの茂みからかわりの人間が同じ人数でてきた。
お父様はまたすぐになぎはらったが、またも同じように人間がでてきた。
―キリがない・・・!
お父様を助けに戻らなきゃ・・・!
そんな考えが浮かぶが、お父様に言われた逃げろという言葉に
したがわなければと体は動こうとしない。
お父様が、ひるんだ次の瞬間
人間たちがお父様のまわりをぐるぐると何か唱えながら回った。
『ガアアアアアア!!』
その瞬間、お父様の下に魔方陣のようなものが広がり、
お父様は叫びをあげるとその場にどさりと倒れてしまった。
「お父様!!!」
シアンが叫んだ瞬間、人間たちがお父様に小さな箱のようなものをつきつけた。
たちまち大きなお父様の体がありえないけれど、その箱にすいこまれた。
そして、千里眼がぷつりときれた。