夏の月夜と狐のいろ。
「私は違うよ。ずっとこんな姿だよ。
狼と人間のハーフなんだって。
気がついたときにはここにいたんだ」
その少女は疲れたようにわらう。
「……」
シアンは黙ってその少女をみつめた。
自分の尻尾がゆらゆら揺れる。
この子は信用できるんだろうか。
狼となんて、あったことも話したこともない。
そんなことを考えているといつのまにか
自慢の尻尾がぶわっとふくらんでいた。
するとそれをみて少女が驚いたように目を見開いた。
「すごい!尻尾が九本もあるの??」
少女はきらきらと茶色い瞳を輝かせた。
シアンは驚いたが、すこし自慢げに思った。
自慢の尻尾をほめられるのは、嫌いじゃない。
「うん、そうよ。私は九尾狐なの」
ゆらゆら尻尾が機嫌よく揺れた。
少女はくすくすと笑う。
「私、誰かとお話ししたの久しぶりだよ。
嬉しいな……私は、ツキっていうの」
ツキはそういって牢屋の隙間から
こちらに手をのばした。
シアンは、一瞬ためらったが
その手を握り返した。
「私、シアン。よろしくね。」
そのときは、まだここのひどく苦しい生活を
想像もしていなかった。