夏の月夜と狐のいろ。
あれからシアンは、自分がここにやってきたいきさつを知った。
あのまま森でとらえられたシアンは
ここに連れてこられて3日たつらしい。
撃たれたところはある程度丁寧に治療してあった。
「死なれるのは困るんだって。」
ツキは、嫌そうにうつむく。
その瞳は"いっそ死なせてくれたらいいのに"と
語っているようにも見える。
そんな話をしていた時だった。
シアンの目に久しぶりの光がとびこんできた。
この牢屋が置かれている部屋があけられたらしい。
「…!?」
シアンは目をほそめ、状況を確認しようと
ツキのほうを見た。
しかし、ツキはこっちを見ていなかった。
おびえたように茶色の瞳は恐怖にゆれていて
体が硬直していた。
さっきまで笑顔で話していたツキの面影はない。
シアンが理解できずに目だけをきょろきょろ動かしていると
部屋に入ってきた人間の男は笑った。
醜悪な、嫌な笑みだ。
シアンの銀色の尻尾がおもわず逆立つ。
それから男はすぐにシアンから目をそらし
ツキの牢屋をあけ、ぐいっとツキの首輪をひく。
「やだっ………もうやだっ……!!」
ツキがかすれた声でいい、恐怖で焦点の会わない目で言った。
だが、男はそれを無視してツキを引きずり出した。