夏の月夜と狐のいろ。
シアンは、ぱらりと本をめくった。
あれから数日。
一人で窓際にすわり、ぱらぱらと本をめくる。
羊皮紙の古くさいにおいが鼻をつく。
ラシッドいわく、はしから簡単な順に並んでいるらしく
順番に読めばいいらしい。
シアンが今開いているのは、文字の本だ。
簡単な文字しか読むことができないシアンには
助かる本のようだ。
だけれどどうも今日は疲れて読む気がしなかった。
頭のなかにツキの怯えた茶色い瞳と
傷だらけの体がうかぶ。
ツキは、どうしているかな。
結局きちんとした別れは言えずにいる。
「…?」
そんなとき、窓のむこうで何かが動いたのが見えた。
シアンは本をおき、立ち上がって窓のそばへいった。
窓からはたくさんの人と、
その中心にある闘技場のようなものが見えた。
まわりの人たちは何やら騒ぎ立てている。
シアンがじっと目を凝らしていると
小さな少女が闘技場へと引きずられてきた。