夏の月夜と狐のいろ。
一瞬、ツキかと思いしっぽがぶわりと膨らんだが
よくみるとそれは違う少女だった。
赤茶色の髪をしたその少女の耳はよこに大きく長く人間ではないことをしめしている。
何が起こるのだろう、とシアンはそこをじっとみつめた。
しばらくすると少女が引きずられてきた扉とは反対の扉から、巨大な猛獣が現れた。
それはシアンの本来の姿にも並ぶ大きさだ。
あんな小さな女の子につきつけてどうするというの?
寝はじめていたシアンのしっぽの毛が、再び逆立つ。
周りの人々が、獣と少女をはやしたてた。
すると獣がものすごい勢いで少女におどりかかった。
少女は、間一髪のところでよけ、走り出す。
けれどもたついてコケてしまった。
シアンははらはらとそれを見つめながら同時に怒りを感じた。
ーツキにもこんなことをさせてたのね!
シアンが怒りにもえた瞳をそこへ向けているとふいに、少女の怯えた瞳と目があった。
(たすけて…)
少女の口元が、そう、動いた。
「あ…」
けれどその次の瞬間、獣が少女の首もとに噛みついた。