夏の月夜と狐のいろ。
シアンは息を飲んだ。
二人の見た目は完全に人間だ。
クロはそっと赤いほうの瞳に触れながら話を続けた。
「ラシッドはクローンをつくる研究をしている。
僕たちはラシッドに作られたもとの僕たちのクローンだ。」
クロはそこで少し言葉をきる。
隠されていないほうの青い瞳からは感情はうかがえない。
「ラシッドは特別な能力をもつ僕たちの能力を欲しがった。
ラシッドはまず、自分がつくりだしたクローンになる入れ物に
僕たちの能力や容姿の情報をそっくりうつしとった。」
シアンは頭をめぐらせて思い出す。
確か、研究所には不気味な色をした
ホルマリンがたくさん安置されていた。
きっと、そこにクローンをいれるんだわ。
シアンは身震いしてそれを思い浮かべた。
自分と同じものが目の前にあるってどんな感じなのだろう?
クロはそれに気がついたかのように嫌な顔をした。
「気味が悪いぞ。自分がもう一人居るなんてな。」
シアンの銀色のしっぽが、ぶわりと逆立った。