夏の月夜と狐のいろ。
「人格を移す作業は失敗しやすいからな。
僕は、僕からシロをうばったラシッドを許さない・・・!」
クロの目が悲しみの色から怒りに燃え上がる。
シアンはびくりとたじろいだ。
クロはそれに気がつく様子もなく
シアンの肩をつかんで低い声で言う。
「お前もこれからクローンをつくられるんだ。
そして人格をうつすときー・・・」
そこまでクロが言ったところでガチャリと図書室のドアが開き
くつくつと乾いた笑い声が響いた。
「おい、クロ?どういうつもりだ?」
そして、低い声が響いた。
「ラシッド・・・!」
シアンのしっぽが威嚇するようにぶわりと広がる。
けれどラシッドはシアンに目をくれることもなく
クロのほうへつかつかと歩いていった。
その表情は、氷のように冷たい。
クロの目の前に立つと、ラシッドはこぶしを振り上げ、
クロを殴りつけた。
一瞬のことで、よくわからなかった。
目の前を、ふっとばされたクロが転がっていく。
ラシッドはクロを殴り飛ばした後、
くるりと振り向いてこちらを見た。
「しかたないな?おい、予定変更だ。
お前の改造を今から始めようか?」
ラシッドは冷めた赤い瞳をほそめて笑う。
「い、や・・・!」
シアンは立ち上がって逃げようとした。
けれど、ぐいっと髪を引っ張られる。
その力は、恐ろしく強い。
「大人しくしてればいい。
お前はただの、材料だ。」
そう言うとラシッドは思い切りシアンの髪をつかんだまま
ずるずると入り口へと引きずった。