夏の月夜と狐のいろ。
「また気絶させられたいか?」
仰向けのままガチャガチャと拘束具を動かしていると
いきなり視界にラシッドが現れた。
赤い瞳が不気味に揺れる。
天井につけられたライトの逆光でラシッドの顔がよく見えず
ただ赤い瞳だけが浮き上がって見えた。
反射的にシアンは動きをとめる。
「そうそう。大人しくしとけ。
お前はもう逃げられないんだからな」
そう言ってくつくつと喉の奥で笑い声をたてるとラシッドは
背をむけて何かを取り出した。
そしてそれをラシッドは、シアンの視界に入る範囲においた。
「これが何かわかるか、狐?」
シアンは驚いて目を見開いた。
そこにあったもの。それは。
緑色をしたホルマリンの中に浮かぶ、何とか人の形を成した肉塊だった。