夏の月夜と狐のいろ。
ピ、ピ、ピ・・・
そんな音が、響いた。
シアンの頭の上についた獣のものである耳がぴくぴくと揺れた。
ヘルメットは、もうはずされている。
体中の至る所から血が染み出ているのがわかった。
痛い・・・痛いよ・・・!
シアンはぼんやりする頭で痛みだけを感じていた。
機械音が鳴り響く研究室の中は、いつの間にか静かだ。
静寂の中にコツ、コツ、と足音がきこえてきて、
シアンのかすむ視界に何かがうつった。
緑色のホルマリンの中。
そこにはさっきまでの肉塊ではなく、きちんとした人間の形をしたものが入っていた。
銀色の長い髪に、頭の上にのっかった獣の耳。
その長い髪の隙間からのぞく、九本の尾。
「どうだ?いい出来栄えだろう?」
そんなラシッドの声はもう耳には届いていなかった。
ただ、シアンはホルマリンにぷかぷかと体を丸めて浮かぶ"それ"-・・・
自分そっくりなその姿を声も出せずに見つめていた。