夏の月夜と狐のいろ。



それは、不気味だった。

クロの言っていたとおり、不気味だった。



目を背けたい衝動に駆られたが、なぜか背けられなかった。



「大丈夫か?まだ、死んでくれるなよ。まぁ痛いだけで
血もそんなに出ていないだろうし死なないだろうが」



不意にラシッドはそう言うとさっとそのホルマリンづけのものを向こうへよけた。



視界からそれが消えると、とたんに力が抜けて痛みが帰ってくる。



「はっ・・・は・・・はぁっ・・・」



肩で息をしながら、かすむ視界でラシッドをみる。

ラシッドは楽しそうに赤い瞳を細めながらこっちを見つめ返した。




「続きは、明日だ。めんどくさいから治療なんてしないぞ。
お前はそのままここで寝ておけ。くっくっく・・・」




ラシッドはそうさも愉快そうに言いながら歩き去ろうと向きを変えた。



けれど、すぐにぴたりと動きを止めた。


入り口のあたりで、何かを睨んでいる。




シアンのかすむ目と、この位置からでは何を睨んでいるのかはわからない。


だが、すぐに誰がそこにいるのかはわかった。




「同じ罪を、また起こす気か、ラシッド?
シロと同じ目にあわせるつもりか?」



クロの、低い声が静かな研究室にひびいた。


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