夏の月夜と狐のいろ。



怒りに任せて胸を潰してしまおうとしたその時、何かに後ろ足をつかまれた。

振り払おうと、思いきり後ろをにらみつけると、そこには無理矢理に足をひきずって傍まできたノエルが居た。


ノエルは、必死な色をうかべた瞳でこっちを見つめ、叫ぶ。


「シアン!!しっかりしろ!!殺すな!」


シアンは、ぴたりと動きを止めた。


怖くなって、ラシッドを見た。

ラシッドは口から血を流して苦しげに肩で息をしている。

骨が多少折れているらしい。



『あ…うう…ああああ!』



シアンは叫びながら後ろに飛び退いた。


頭を降って、冷静になる。


自分の目的はラシッドを殺すことじゃない。

お父様や、シロを助けることだ。


殺したりしたら、こいつらと同じだわ!


シアンは唸りながらさらに交代し、柔らかくノエルを尻尾で包んで抱えた。


ラシッドは苦しげに、でもにやっと笑った。


「逃げても、いいぞ。どうせまた俺たちは対峙する。目的をはたすまではな」


< 91 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop