夏の月夜と狐のいろ。
怒りに任せて胸を潰してしまおうとしたその時、何かに後ろ足をつかまれた。
振り払おうと、思いきり後ろをにらみつけると、そこには無理矢理に足をひきずって傍まできたノエルが居た。
ノエルは、必死な色をうかべた瞳でこっちを見つめ、叫ぶ。
「シアン!!しっかりしろ!!殺すな!」
シアンは、ぴたりと動きを止めた。
怖くなって、ラシッドを見た。
ラシッドは口から血を流して苦しげに肩で息をしている。
骨が多少折れているらしい。
『あ…うう…ああああ!』
シアンは叫びながら後ろに飛び退いた。
頭を降って、冷静になる。
自分の目的はラシッドを殺すことじゃない。
お父様や、シロを助けることだ。
殺したりしたら、こいつらと同じだわ!
シアンは唸りながらさらに交代し、柔らかくノエルを尻尾で包んで抱えた。
ラシッドは苦しげに、でもにやっと笑った。
「逃げても、いいぞ。どうせまた俺たちは対峙する。目的をはたすまではな」