オレンジどうろ




後夜祭といってもキャンプファイヤーとかもしないし、外に長い机並べてボランティアの生徒が料理を作ってくれてみんなで食べる、というお食事会みたいなものだ。


私の左側に彩ちゃん、右側は空席。

紙皿に好きな具を乗せて彩ちゃんと食べながら体育祭のことを話してた。


その時だ。


私の隣の空席が埋まった。


私には関係ないので彩ちゃんと変わらず話していた。
すると私のポニーテールの重みが軽くなった。


「スーミレちゃんっ」


鳥肌がゾワァッ、と立った。
私は恐る恐る彩ちゃんの方に向けていた顔を後ろに向けた。


「...沢木先輩」


今まで、どんな人にでも仲良く出来た。それはどんな人でも優しい心を必ず持ってると思っていたから。


でも、この人は...沢木先輩は分からない。

沢木先輩の本心が全く見えない。

100メートル走の時もそうだ。沢木先輩は笑ってはいるけど上っ面の笑顔というか、ただただ、怖い顔にしか私は見えなかった。


「どうした、スミレ?顔色悪いよ?」

彩ちゃんが心配そうな顔をしながら私を見る。

「んー、少し疲れちゃったのかも。飲み物買ってくるね!」


私は笑いながらその場を後にした。



目眩がする。


沢木先輩が怖い。



自販機で買ったお茶を口に運び、その場にぺたり、と座った。

恐怖で心が埋め尽くされないように深呼吸と「大丈夫」と何度も自分に言い聞かせた。


やっと落ち着いた私は、彩ちゃんの元に戻ろうと立った。


「スミレちゃんっ」


そう声をかけられたのは立ったその瞬間で、それと同時に治まったばかりの恐怖感が再び戻ってきた。


「そんなあからさまに嫌そうな顔しないでよ、スミレちゃん」


口は笑ってるのに、沢木先輩の目元は笑っていない。

沢木先輩が私の方へ一歩、また一歩と近づいてくる。その度に私の恐怖は増していき、目眩、さらには指先が痺れてきた。


「やだぁ...来ないで、下さい...」


そんな抵抗は無意味で、沢木先輩はさらに近づいて来る。

過呼吸に近い私の呼吸、指先の痺れ、目眩全てが私のパニック障害を肯定する症状だ。



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