BLOOD・CONTRACT
なんとか言霊を使い、逃げ切れた。
『ハァ…死ぬかと思った…』
男性経験がない奏都は外に漏れるように心臓が鳴っていた。
あるとすれば兄、磨樹ぐらいだ。
静かな廊下を歩く。
自分の足音しか聞こえない。
授業中なのか学校が妙に静かだ。
いや校庭も。
鳥のさえずりも木々の掠れる音も何も聞こえない。
『えっ…?』
何かが変と奏で都気づいた。
(こんなに静かな訳がない)
頭の中は疑問と恐怖が充満していた。
カツカツ…
『!』
遠くから足音がする。
音のする方に振り向くが姿はない。
カツカツ…
確かに足音は近づいている。
革靴を擦るように歩く音。
カツカツ…カツ
『止まった…』
足音は奏都と一定の距離をとったのか足を止めた。
『誰…?』
すると、奏都の横を強い風が吹き、何かが通った感じがした。
「今は授業中だぞ、ここで何をしている?」
後ろから声がしたのだ。
殺し屋たる者気配には敏感な生き物だ。その奏都が全く気づかず、背後を捕られてしまった。
『あっ…すいません…』
そこに立っていたのは、黒髪で長髪の眼鏡をかけた男だった。
「何年だ?」
『2年です…』
「名前は?」
名前を聞く必要があるのかと思った奏都は男の威圧感に対し、自然と答えた。
『浅宮奏都です…』
「浅宮…そうか、無断で授業サボってるんだろ?」
『はい…』
サボるとゆうより、休み時間内に戻ることができなかったのが正しい。
「このことは担任に言っておく。すぐに教室に戻れ」
『わかりました』
どうやら彼は風紀委員らしい。きっちり絞めたネクタイに乱れのない制服。それが何よりの証拠だ。
奏都はその空気に耐えられず足早にその場を去る。
「浅宮…奏都か…美味そうな血だ…」
彼の言葉は静寂の中に溶けて、奏都に聞こえることはなかった。