赤いスイートピー
「いつもこれくらいの時間に帰ってるよね。部活とかやってないんだ?」

「やってません。」

チエミはヒロユキがどうしてそんなことを聞くのかがわからなかった。

チエミはまだ14歳ー男の子と付き合う意味もわからない子供だったから。

「あっ‼」

ヒロユキはいきなりチエミを指差した。


「えっ!」
びっくりして、チエミは一歩、後ずさる。

ヒロユキは自分の頭を指差して言う。


「もしかして、俺のこと不良だと思ってる?このアタマのせいで。」


彼の髪は少し無造作なウエーブがかかっていた。

チエミは曖昧に微笑みながら首を傾げた。

「パーマじゃないから。これは。
天然パーマなんだ。」


ヒロユキは唐突に、この頭のせいで、いかに難儀な人生を送ってきたかを語り始めた。


「幼稚園まで、クセのないサラサラヘアーで皆に褒められたんだよね。
いつのまにかパーマっ気が出てきてさ。小学生にして朝、ドライアーでブローする生活だよ。
親にはいいかげんにしろって怒鳴られるし。中学に入ったら、三年に目を付けられてさーそれはパーマだけのことじゃないんだけど、パーマかけてんじゃねえって呼び出されて、顔面殴られたんだぜ。すげー腫れた。ひでーよな。
学年が変わる度に生活指導に呼ばれて、パーマかけてるんだろ、嘘つくなとか正直に言えとか延々と説教されるし、本当、参っちゃうよな。」

ヒロユキのジェスチャーたっぷりの話ぶりに、チエミはいつのまにかすっかり警戒心がとけ、笑い声を立てていた。


チエミの学校の同じ学年で彼氏がいるのは、ほんの一部の派手な子だ。

親がお金持ちで、大学生や社会人と付き合い、彼氏の車で迎えにきてもらう。

あの子たちは、チエミたちのことなど鼻もかけない。

住む世界が違う。

チエミはそう思っていた。

だから、チエミは自分に彼が出来るなんて夢にも思っていなかった。
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