赤いスイートピー
チエミは毎日のようにヒロユキと会っていたから、帰宅が八時過ぎになることもあった。

継母はなぜ帰りの時間が遅いのか理由は聞かず、ただ「おかえり」とチエミの顔を見ずに言った。

食卓には相変わらずチエミの夕飯が用意されていた。

着替えを済ませたチエミは、一人で食卓に付き、それに少しだけ箸を付ける。

どんなにお腹が空いていてもあの人の作ったものを全部食べるのは嫌だと思った。
あとは相変わらず、自室でお菓子を食べる。



〈ハッピー公園〉でチエミはヒロユキに若い継母の話をした。

「十五歳年下の兄弟かあ…」

雨上がりの日だった。
ベンチが濡れていたから、二人は立ち話をしていた。

「いいじゃん、赤ん坊って結構かわいいぜ。」

チエミには予想外の言葉だった。

「俺の姉貴、7コ上で結婚してて赤ん坊いるんだ。いない、いないばーとかやると、すげー喜ぶの。」

「ヒロユキ君、そんなことやるんだ。」

チエミには、ヒロユキと赤ん坊が結びつかないけれど、いない、いない、ばーとジェスチャーするヒロユキが可笑しくて思わず笑ってしまった。

ヒロユキといると本当に心が軽くなる。

「難しいけどね。でも十年後にはきっといい関係になれるよ、多分ね」

ヒロユキは大人びたことを言った。

「無理して仲良くしなくてもいいよ。チエミは優しいからいつか解決する。」

私は優しくなんかない…

ヒロユキの言葉に、公園に出来たいくつかの小さな水溜りを見ながら、チエミは胸の中で呟いた。

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