君と僕、あなたとわたし
そんな会話をしつつも、俺は手を休めず、今日最後の仕事にとりかかる。
そんな俺をよそに、先輩は隣で喋りまくる。
「そうか、お前。前に言ってた、いとこの何とかちゃんに会うのが、楽しみなんだろ!」
今まで話を聞いてなかったのに、そう言われると自然に手が止まった。
俺の頭は一瞬真っ白になって、手が動かない。
何やってんだよ俺…。
あんなこと言われて、自分がこんなに動揺するなんて、思いもしなかった。
「あれれ?維月くぅーん?どうしたの?まさかの図星ってか?」
そのまさかのまさか。
実際、親父から帰省の話を聞いた時、真っ先にあの子の顔が頭に浮かんだ。
「…。」
「おいまじかよ。お前いとこだぞ!?しかもなんと17歳!!」
自分でも驚いている。
高校3年のいとこに会うのが、楽しみなんて。
そう、俺が12歳の時赤ん坊だった彼女は、元々小さい頃から可愛かったし、上の結翔も彩ちゃんも美形だった。
俺が彼女の魅力に気づき始めたのは彼女が高校生になってから。
今まで妹みたいな可愛さだったのに、どんどん成長して綺麗になっていく。
そんな彼女の姿に気づいたのは俺だけじゃなかった。
弟の雅人もだった。
俺は彼女のことを先輩に相談…というか、話していた。
「いやぁ、いとこかぁ。ま、大丈夫だぞ!一応いとこなら結婚できるから!」
「別に恋愛感情じゃないですよ。ただ、俺は結翔と同じくらい兄として、彼女の成長を見るのを楽しみにしてるんです。」
「ふーん?それってどういう意味の成長なんけ?赤ん坊じゃないから急激な変化はないと思うけど?」
「俺は先輩みたいに変態じゃないから変な意味の成長じゃありません。」
「俺だって変態じゃねーよ。」
俺は“はいはい”というと、ノートパソコンを閉じて鞄に入れた。
さて、帰るか…。
「見てろ、今回の帰省中に何かが起きるぞ。」
先輩の言い方にちょっと笑ってしまう。
「じゃ、お疲れさまです。先輩合コン頑張ってくださいねー。」
そう言って俺は会社をあとにした。