猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「うるさいって!」
絢士が耳から離した携帯から『ギャー』『イヤーッ』とかいう大きな悲鳴が、隣にいた美桜の耳にも届いた。
「すみません、お留守の時に……」
申し訳ない気持ちで美桜が電話に向かって謝ると、今度は『ウソーッ』とか『キャー』という賑やかな声が聞こえてくる。
「いいよ、また改めて来てもらうから。源さんと楽しんで!じゃあな」
まだ叫んでいる母親を無視して、彼は無情にも携帯を切ってしまった。
「いいの?」
「いいんだよ!源さんて誰だよ、ったく」
寛容な振りして、子供みたいに不貞腐れる彼が可愛くて、美桜はつい吹き出してしまった。
「なんだよ?」
「仲良し親子だな、と思って」
「そうか?」
「ええ、羨ましいわ」
「羨ましがらなくても、すぐに美桜も仲間入りできるから」
「えっ?!あっ、そうね」
彼の指す意味に気がついて美桜は照れてうつむいた。
【仲間入り】彼と家族になると、言われて気がつく。
「羨ましいなんて言ってたこと、後悔しないといいけどな」
「しないわ、絶対に!」
また母親という存在が自分にできる事に美桜の心は浮き立った。
コートを脱いで落ち着くと、彼がやるといったコーヒーを手伝って二人で淹れた。
「さて、お待ちかねの絵を持ってくるよ」
コーヒーを飲み一息ついた所で絢士は立ち上がった。
「美桜?」
自室から持ってきた猫の絵を床に置いて壁に立て掛けてると、絢士は立ち止まった。
キャビネットの上に飾られた絵を凝視している彼女に苦笑いする。
さすが鋭いな
「これも綾乃さんの絵よね?」
美桜は独り言を言っている。
スケッチブックを破いて額に入れた、色鉛筆のラフなフック船長とワニは母が描いた最後の絵。
何だかんだとイチャモンをつけていたみゆきさんが、
一番気に入っている思い出の絵だ。
「それはみゆきさんのお気に入りだよ」
「えっ?あっ!!それっ」
絢士を振り返った美桜は猫の絵を見て駆け寄ってきた。