猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「何が言いたいんだ?」
強い力で美桜は肩を掴まれた。
「絢士さん……」
「まさか俺の気持ちを疑っているわけじゃないだろうな?」
間近で見つめる怒った彼の顔は、どこか泣きそうにも見える。
「……ごめんなさい」
もちろん信じてる
けれども……
「何が何だか……」
絵に振り回されているような気がするし、何だかとても大変な事に気づいていないような、もどかしい感じがする。
「ちくしょう!何なんだよ?!」
「えっ?」
「美桜こそ、どうしてそこまでこの画家の絵にこだわるんだ?」
「それは……」
自分の話じゃないから、父親同然の大切な東堂のおじ様の事だから簡単に話せる事じゃない。
事情をきちんと把握していないから、自分のいい加減な憶測を話す訳にはいかない。
「昨夜言ったことは本当だよな?!絵の持ち主と君は関係ないんだよな?」
彼の言ったことを信じて、話してくれるまで待とうと思ったけれど、やはり昨夜から絢士さんはおかしい。
「絢士さんこそ、どうしてそこに拘るの?」
私と東堂のおじ様に何かあったら困るの?
「それは……」
あれ?もしかして、持ち主がおじ様だって知ってるの?
「絢士さん、何を隠しているの?」
「それは俺の台詞だ!美桜こそ何か隠してるだろ?!」
「私は何も隠してないわ!!」
美桜が叫ぶと同時に猫の絵がバタッと前に倒れた。
「うわっ、ビックリした!」
「あっ……嘘っ……」
美桜はハッとしてわなわなと震える唇を手で隠した。
「み、おう?」
絵を直しながら絢士は顔色が変わった彼女に驚いた。
「どうした?!」
「わ、わたし……ごめんなさい、帰るわ」
「はっ?!」
美桜は思い当たったもしかして…に、頭の中が大混乱していた。
そんなことって……
ううん、そうだとしたら……
どうしよう、一体誰と話せばいいのかしら?
おじ様?いいえ、それは最後。
日向?違う、それもまだ先。
こんな時頼りになるのは……
無意識にコートを着てバッグを持って、美桜はすたすたと玄関へ向かった。
「ちょっと待て!どうしたんだよ?!」
掴まれた腕を無理矢理引き剥がす。
「私、帰らないと!」
「なんで?まだ話の途中だろ?!それに俺に話があるって言ってただろ」
「あっ」
どうしよう、忘れてた……
でも、今このタイミングで打ち明ける事ではない。
「それはまた今度」
「美桜!!」
「今日はお母様にお会いできなくて残念だったわ」
「あ、うん、っておいっ!」
「連絡待ってるわね、それじゃあ……」
言いながら彼女はロングブーツを履いた。
「お邪魔しました」
「美桜!!」
バタンッと閉まったドアを絢士は呆然と見つめた。
どうせ無駄だろう……
追いかける気力も出てこない。
「何なんだよ、連絡待ってるって」
これじゃ何も進歩していないじゃないか
打ち明けようと思ったみゆきさんの事を話せずじまいだし。
それよりも美桜が何を隠しているのか……
結局、お互いの事を知っているようで何もわかっていないままじゃないのか?
「ちくしょう……」
それでも、お互いに愛してるという気持ちに偽りはないと信じている。