猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「おまえは帰って兄貴と話をしなければならないだろ?家の事とかオババの件は絢士に話したのか?」

美桜はハッと息を飲んだ。

それを見て陽人があからさまなため息をついた。

「あいつは今ごろおまえとの関係を早まったと後悔してるかもな」

「えっ?」

「どうせあやのさんが生きているかもと思ったら、いてもたってもいられずここへ来たんだろ?絢士の気持ちも考えずに」

美桜は慌てるように、椅子から立ち上がった。

「男が重い決断をしたのに、おまえときたら絵の事に夢中になって。さすがの俺も絢士に同情するよ」

言いながら陽人はパソコンに向かってさっきの続きを始めた。

「嫌われたかしら?」

「少なくとも、俺なら呆れてる」

「陽人助けて……」

「必要か?」

座ったまま美桜を振り仰いだ陽人の笑みが悪い人の顔になった。

「い、いいっ!!いいです!」

陽人の愛情は時々歪んでる。

絢士さんに余計な事を言いそう、っていうかそうやって彼をいじめて楽しみそうだ。

それよりも……

「ねえ、陽人……」

志都果さんはどうやってあやのさんが亡くなったのを知ったのかしら?

おじさまはその事を知っているのかな?

ますます増える疑問を一緒に考えて欲しかったのに、白衣の袖を引っ張ってみてもパソコンに向かう陽人の興味のスイッチは切り替わらないようだ。

「ハワイに行ったらチョコレートよろしく」

「ハワイなんて行かないわよ!」

「あっそ」

顔を上げもせず陽人はしっしと追い払うように片手を振った。

「早くしないと、本当に絢士が考え直すぞ」

「もう!陽人なんて嫌いっ」

美桜は鞄の中に手を突っ込んでアーモンドチョコレートの箱を陽人の白衣のポケットに入れてから、研究室を飛び出した。


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