猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「絢士さん?」

「俺も美桜に話すことがある、だけど今の状態じゃ無理。美桜が気になっている事を確かめて、隠してること全部俺に話せるようになったら教えて。そしたら俺も全部話すから」

全てはお互いに素直に話せる時まで待とう

「わかった…、でも」

「ん?」

「私、絵の事じゃなくてあなたに話さなければいけない事があるの」

「それもその時に聞くよ」

今さらここで小出しにされるよりは、
全部まとめてドーンと来い、だ!

「でも……」

複雑な顔の彼女の腰を引き寄せた。
座ったまま立っている彼女を見上げる。

「そんな顔しなくても俺の気持ちは変わらないよ、美桜を愛してる」

問い詰めないのは惚れた弱味

「私も愛してる」

彼女がぎゅっと俺の頭を抱きしめた。

「絢士さん、やっぱり私の家の……」

ズボンのポケットからメ着信音がして彼女がばっと離れた。

「悪い」

見なくてもわかる内容を確認しながら、立ち上がる。

「さっき神宮寺から連絡があって手配にミスがあったみたいで、やっぱり俺が行かなくちゃダメみたいだ」

彼女に会って話すまでは行けないと、神宮寺に何とかするように言ったが急を要するらしい。

「そう、だから着替えたのね」

「いや、これは……」

物臭兄貴から連絡をもらった時は、違うつもりで着替えてたんだけど。


「ごめんなさい、私の事待っててくれたのね」

「昨日の事もあるし、本当なら送って行って邪悪な兄貴に挨拶するべきなんだけど…」

「大丈夫よ、私からちゃんと話しておく」

「すまない。タクシーを拾おう」

予め用意していた鞄を植え込みから取って、彼女の手を引き通りまで歩いて出た。

「お仕事頑張ってね」

「ああ」

「絢士さん」

「ん?」

「ううん、やっぱり何でもない」

「タクシー来たぞ」

「お仕事急ぎでしょう、先に行って」

美桜が俺の背中を押した。

「わかった」

少し後ろの赤信号にもう一台が見えたので、素直にそれに乗り込んだ。

「連絡待ってるから」

「うん」

俺を見送る彼女の顔がやけに悲しげで、
『可愛い彼女を置いて仕事は辛いですね』なんて、
運転手にからかわれるまで絢士はずっと後ろを振り返っていた。


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