猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
秘密の入り口
美桜は母の形見の腕時計を見た。
午後5時50分。
開店は午後6時だって言ってた。
昨日、私の性格を思い知った絢士さんにこれ以上幻滅されるかも知れない事をするなんて、どうかしてるって自分でもわかってる。
『それは本当に正しいの?』って日向に散々忠告されたけれど、美桜の勘が言わずに会うべきだといっている。
それを言うと、日向は折れて店番を引き受けてくれた。
四時に予約した美容院へ行き、サイドをアップにした固くなりすぎずほどよい感じにしてもらった。
服装は間に合わせの昨日と違って、渋る日向に選んでもらった清楚なベージュのワンピースに薄いピンクのカーディガン。コートはあえて普段使っているものに。
「大丈夫よ、一人でだって切り抜けられる」
割烹みゆきの前で美桜は自分に気合いを入れた。
ガラガラっと入り口の引き戸が開いて、大柄の和服の女性が暖簾を上げた。
「あら?あなた……え?もしかして美桜ちゃん!ねえ!そうでしょう?」
凄い、どうしてわかったのかしら?!
「は、はい。初めまして……」
「いいから、いいから!お入りなさい」
「えっ、はい」
「キャー可愛いわねー!絢士ったら!趣味がいいのはわかってたけど、座って」
思っていた印象と違った絢士の母親に圧倒されていると、彼女にコートを脱がされてカウンターの席に座らされた。