猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「お仕事は?今日はお休み?」

「仕事はアンティークショップをやっています。今日は少し早く上がりました」

「アンティークショップ!まあ素敵!」

「ありがとうございます。絢士さんがお店に来てくださって、知り合えたんです」

「あの子がナンパしたんでしょう?」

カウンターから手際よくお茶を淹れて出しながら彼女はにこっと笑った。

「いいえ。あの……えっと、絢士さんは私がナンパしたって言うと思います」

ああ、もおー!

そんなときに何をばか正直に話して!って後で絶対日向に怒られるわ。

「あら。まあ仕方ないわね、うちの息子がハンサムなのは隠しようがないから」

「はい」

答えてから、ハッとする。

「あはは!美桜ちゃん、正直でいいわ!」

「え!?あっ違うんです!」

と言っても今さら後の祭り。

「いいのよ、あの子になんて声かけたの?」

「えっと、それは……絵を見せて欲しいって言ったら、絢士さんがそれはナンパって」

「ああ、絵ね」

あっ、まただわ。
私が麻生と名乗った時と同じ表情。

あやのさんと何かあるのは間違いなさそう

……だけど

「何か食べる?」

話題を変えるように彼女の表情も変わった

「あの」

「美桜ちゃん、嫌いなものはある?」

どうしよう……
あやのさんの話題は避けた方がいいみたい

「絢士は椎茸が嫌いなのよ、知ってた?」

「はい、きのこは食感が嫌だって」

「そうそう」

このまま絢士さんを肴に楽しく会話して帰れば、将来の息子の嫁としては合格をもらえるのかもしれない

でも。

美桜は奥歯をぐっと噛み締めた。

「あの!お母様は、あやのさんとはどういうお知り合いですか?」

「あやの?どこのあやのさん?」

やっぱり。
あやのさんの話題は避けられている。

美桜のバカ!!
頭の中で日向の声がした。

わかってるわよ!!
怯む心をぐっと堪えて、勇気を振り絞った。


「すみません、自分でも愚かな娘だとわかっています」

「ならば、おやめなさい」

「出来ないんです……絢士さんとも約束したんです。自分の納得できる答えを見つけるって」

「本当に正直な娘ね」

はあーって呆れたため息をついて、彼女は何かを作っていた手を止めて美桜を見た。

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