猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
―昨晩―
蓮の机の前に椅子を引っ張ってきて座ると、美桜は思いっきり顔をしかめた。
「もういっそ、あの人で決めようかしら」
「馬鹿を言うな!」
蓮の怒鳴り声が部屋中に響いた。
「いいのよ、私は不自堕落で愚かな娘なの、
だから伯母さまはご自分で何とかしようと必死なのよ」
大嫌いな伯母は耳にタコができるほど美桜をそう愚弄して将来を危ぶんでいた。
まあ、白馬の王子様だと思っていた彼が別れを切り出した理由も同じようなものだったから、あながちハズレではないけれど。
気がつかずにいた彼の本性はもっと酷いものだったけれど…、あら、そういう意味では本当に愚かな娘だわ。
渋い顔の蓮を見て、美桜は笑いそうになった口許を慌てて引き締めた。
今の生活に満足している
大好きな仕事をして楽しい友人と愛する家族がいて
充分幸せよ。
それなのに……
「ふざけてる場合か?」
「はあー」
美桜は今日ここへきて三度目のため息を、あからさまについて見せた。
「お兄さま、怒ってばかりいると血圧が上がるわよ」
「人を年寄り扱いするな、俺はまだ33だ!」
「もう!どうしてわかってくれないの?」
おまえの方こそわかってない!と 蓮は思っていた。