猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
蓮の思いやり
今日の運勢は今年一番最悪で間違いない。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
最低な気分で家に帰っても、美桜の最悪な一日はまだ終わていなかった。
自室へ向かおうとすれば、タキが怖い顔をして首を振る。
「タキさん」
美桜は力なく首を振り返した。
昨日は蓮の仕事が遅かったお陰で話し合いをせずに済んだ。
「若様がお待ちです」
「頭が痛いの」
タキにはそれが嘘だとお見通しでも、美桜は蓮と話し合いをするつもりはない。
「若様の方がお具合が悪そうですよ」
「タキさんが蓮を贔屓してるって、天国のお父様に言いつけるんだから」
「いいですよ」
もちろんこんなのはただの憎まれ口だと、お互いに承知している。
「ついに認めたわね、子供の頃からずっとそうだと思ってたのよ」
「ええ、そうでしょうとも。人間国宝の花瓶を割ったのも結城早雲の書にイタズラ書きをしたのも若様で、私が一緒に謝ったんでしたね。あっ、ご主人様のゴルフクラブに……」
あーもう!よくわかってるわよ、
タキさんはいつだって私の味方だったって!
「わかったわよ!もう!行けばいいんでしょう!」
「はい、お願いいたします」
しれっとしながらも、タキさんが用意してくれたお茶は美桜の大好きなミルクティーでやっぱり彼女のお気に入りは自分だと、ささくれ立った心がなだめられた。