猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
約束のレストランは、志津果が予約していた席で当たり障りのない仕事の事や日向の話、蓮や陽人の事を話ながらシェフ自慢の魚料理を堪能した。
「さてと、行きましょう」
食事を終えて部屋でゆっくり話すかと思ったのに、志津果はそのままバーへ向かった。
「美桜ちゃんとゆっくり飲むなんて、初めてじゃないかしら?」
「そうですね」
瞳の前のプライベートビーチを眺めながらカクテルを飲むと、ゆったりとした時間の流れや夜の静けさの中で響く波音に、心からリラックスしていくのを感じる。
「昔は椿妃と二人、ここで話したわ」
「ママたちばっかりきれいなジュース飲んでずるいって日向と見てた事もありました」
「うふふっ。それで二人して勝手にお部屋でジュースを色々混ぜたりフルーツを乗せたりしてね」
「あっそうそう!あれは不味かった」
今でも味を思い出せる。
日向がどうしても青くしたいってお菓子のグミを潰して溶かして混ぜたあの味ったら。
二人して渋い顔をして、ぷっと吹き出した。
「日向はやるって言ったらきかないから」
「はい。結局おじさまがかき氷のシロップを買ってきたんですよ」
『そうそう。あの人はいつも日向のそういう所を面白がっていたのよね。あの人は……東堂は元気にしてる?」
「はい。でも最近は都合良く年寄りぶったりするんですよ、死ぬまでに孫の顔が見たいなんて言ったりして」
「あら、それは私もよ。日向よりも美桜ちゃんのが言いやすいから言っちゃうけど」
「もう、志津果さんまで」
「うふふ。孫かあ……椿妃とここで話してた時はまだ遠い未来だと思っていたのに、もうすぐそこまできた現実なのよね。こうして美桜ちゃんとお酒を飲んでいるんですもの、私も年をとったわ……」
志津果のしんみり遠い瞳で海を眺めている姿が、沈んでしまった太陽のようにやけに寂しげに見えた。