猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

一階のレストランにあるテラス席は、瞳の前に広がる庭園の景色を四季折々楽しめて、美桜もお気に入りの場所の一つだったが。

「嘘よ……」

今日に限っては、その入り口に信じられない光景が見える。

「美桜?どうした?」

立ち止まって動かない美桜に蓮は目を細めた。

「どうして……」

何かの冗談よね?
何故あの人が零オババといるの?

「ん?あの男は……」

蓮は彼を思い出せないみたいだ。
そうよね、直接会った事はなかったもの。
美桜の足は次の一歩を踏み出さず、じりじりと後ずさりはじめる。

二人がこちらに気づいて、声をかけながらゆっくり歩いて来る。

「二人とも遅かったですね」

視線を零華伯母さまへ向けた美桜は、別の驚きに今度は息が止まりそうになった。

「蓮…、オババが笑ってるわよ……」

「ああ」

同じく恐ろしいものでも見るように、隣で蓮がびっくりした顔をしたまま頷いた。

「零華伯母さま、これは?」

なに?どうしてオババはそんな得意気な顔?

「久しぶりだな、美桜」

二度と思い出したくなかった甘い笑顔に胸の痛みが蘇ってきた。

「やめて」

彼が誰かを思い出そうとしてる蓮に彼は挨拶をした。

「お久しぶりです…いや、初めましてになりますね。
 西園寺光彦(さいおんじみつひこ)です麻生蓮さん」

イギリス仕込みの優雅な振舞いは、ちっとも変わっていない。

何度か家にも来たことのある彼が多忙の蓮と顔を合わせる事はなかったものの、電話で短いやり取りはしていたはずだ。

蓮がハッとして私を見た。

思い出したのね。そうよ、家に引きこもって泣きはらした原因はこの人よ。

美桜は頷いた。

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