猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「帰るぞ!」

さすが蓮!と踵を返した途端にオババの金切り声が響いた。

「二人ともそんな無礼は許しません!西園寺ご夫妻に謝りなさい!!」

蓮の足がピタッと止まった。

「くそっ……」

ああ、そんな……
ビクッとして恐る恐る振り返る。

「申し訳ありません、ご無礼をお許しください」

先に蓮が夫妻の方に向き直り深くお辞儀をするのを見て、慌てて美桜も頭を下げた。

「そんな!やめて下さい!麻生さんにそんな事をされたら困ります、頭を上げて下さい!!」

「失礼致しました」

顔を上げた蓮はすっかりASO の社長の顔になっていた。

「取り合えず話をしよう」

小声でそう言いながら、これは不味い状況だとアイコンタクトが告げている。

勿論、そんなのわかってる。
西園寺家は由緒正しきお家柄、オババには異論のない血筋。

しかも、今のASO にとっても、西園寺のファミリービジネスである人工知能の開発はもってこいの提携先になる。

嘘でしょう?
神さま、こんなのあり得ないわ

これが一年前なら喜んでいたかも知れないけれど、
今絶対にあり得ない。

「信じられない……」

美桜の呟きに反応したのは西園寺だった。

「美桜、二人で話さないか?」

「え?」

「早速で申し訳ありませんが、色々誤解もあるので二人で話をさせてもらえないでしょうか?」

ちっとも変わってない。

そうやって魅惑的な笑顔で隠して、自分のやりたいように事を進めるのね。

私が否定するなんて思ってないのよ。

その証拠に彼は言いながらもう私の腕を軽く掴んで、庭の方へ向きを変えている。

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