猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「何を言ってるの?」
「美桜には話してなかったけど、一年前うちの会社、研究者と特許のことで揉めて危なかったんだ。なんとかしたくても空回りばかりで自分の不甲斐なさと焦りで落ち込んだよ」
美桜は眉間に皺を寄せた。
何を今さら自分を正当化しようとしているの?
「そんな時に伯母さまの登場だよ。俺のプライドは地に落ちたね。だから、どうせ別れるなら美桜を傷つけて二度と会えないようにしようと思ったんだあきれるほど馬鹿な男だろ?」
「信じられない」
『そうだな』って彼は寂しそうに笑った。
「お陰でその怒りを原動に必死になれたよ。
俺は自分に出来ることを頑張った。一時株価が底値になってもうダメかと思ったんだけど、最後の最後で和解して今は何とか穏便に事が運んで会社も持ち直すことができた」
そう言って美桜の方に体を向けると、西園寺はあの頃よくしたように、頬に手を当てようとした。
「自業自得だけど、君を失った心の穴が埋まることはなかった」
美桜は上げられた手を思いきり払った。
「相変わらず、お芝居がお上手ね」
「何を言うんだ?芝居なんかじゃないぞ」
「やめて!!今さら白々しいわ、私が何も知らないと思っているのね」
「何をだ?」
「あなたの会社が傾きかけていたのは知っていたわよ!
もちろん、うちの…ASO の力が目当てで私と付き合っていたのも!」
「何だって?!」
「白々しいお芝居はもうやめて!
全部知ってるのよ、私、知ってたからあなたに嘘をついたの。私はASO では何の権限もないって。兄に意見することはおろか、相続する財産も殆どないって」