猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「春になったら俺はどこかに消えるよ」
「光彦さん?」
「やっと名前、呼んでくれたな」
「みお」
変わらない優しい声に瞳から涙が溢れた。
あの頃、そう呼ばれる度に幸せで満たされていたのに、今は切なくて苦しい。
「泣くなよ……」
涙を拭おうとした彼の手は、顔の前まできて躊躇って下ろされた。
「独りじゃないんだろ?」
美桜はゆっくり、でもしっかり彼の瞳を見てうなずいた。
「そっか。ごめんな、愚かにも僅かに期待して今日ここへ来てしまったよ」
「ごめんなさい」
なんにもわかってなかった
こんなに素敵な人だったのに……
「みおが謝ることなんか何もないだろ」
「でも……」
「本当にそう思ってるなら、ちゃんと幸せになってくれ。そうじゃないと俺は諦められないからな」
よしよしと、蓮や陽人がいつもするように頭を撫でられて顔を上げる。
「泣くのか笑うのかどっちかにしろよ」
「光彦さんだって変な顔よ」
「俺は変わらずイケメンだろ」
「蓮の次にね」
昔よくした二人のやり取りに、ぷっと吹き出してから、二人で爆笑した。
「懐かしいな。しかも今日初めて本物見たけど、お兄さんのイケメン半端ないし」
「でしょう?」
友達になんてなれない
でも、今だけはお互い胸の痛みを隠してほんの少しの時間、懐かしい昔話をしよう
たぶんこれが最後だから……
そんな二人を離れた所からみたら、
どう見えるかなんて気づきもしなかった
運命の歯車が狂い出すなんて……