猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
「でも彼女は麻生じゃないか」
「これは本当かどうか定かではないんですが、
大河内の血が流れし者は家系の血筋が清き者としか交わるべからずっていう掟があるって昔、祖父に聞いたことがあります」
「はあ?」
「ですから、彼女のお相手は家柄がきちんとしていないとダメなんですよ。実は以前お恥ずかしながら両親が兄貴の見合い話を彼女に持って行った事があったんですが却下されてました」
「おまえの家は創業100年の老舗だろ?」
「そういうの関係ないんですよ、もちろん我が家の歴史は誇りに思ってますし、そういう意味での尊重はあちらからもされていますが、老舗でも商人ですから大昔はそれなりに悪どい事もしてたようで…」
「馬鹿な……」
「でもこれは本当の話なんです。えっと……
一昨年だったかな、ものすごく貧乏だった小説家があの家の分家のお嬢様と結婚したんですが、彼には松平方面の血が流れていたとか、家系に神事に貢献したとか……とにかくお金じゃないんですよ」
「松平って………」
「はい、水戸の方の。それにですね、不思議な事にその小説家は結婚してジャンルを変えた途端に売れ出したんですよ!ほら、何て言ったかな最近映画化もされた……
何とかの夜明け前とかってやつの原作者です」
こいつは何を馬鹿なことを言ってるんだ?
一体いつの時代、いやどこの国の話をしている?
この現実は到底受け止められない。
まして、彼女のあの格好からすると見合いでもしていたかのようじゃないか……
血筋の良い元彼って何なんだよ!
どうしてそんなやつと会ってる?!
「室長?大丈夫ですか?なんだか顔色が悪いですよ?」
「なんでもない!!」
思わず大声で怒鳴って、ハッとした。
「悪い……ここは払っておくから、おまえ先に行ってくれ」
「でも……」
言いながらも神宮寺は立ち上がった。
やはりこいつは察しがいい。
「披露宴会場の前で待ってます」
「ああ、すぐに行く」