猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
神宮寺が出ていくのを見届けると、絢士は頭を抱えて項垂れた。
嘘だろ?
信じがたい事実に立ち上がる事もできない。
思い起こしてみれば、美桜の態度におかしな点はいくつかあった。
『本当の私を知っても』
そうだ!初めてここに来た日、彼女はそう言っていた。
本当の彼女……
そういう事だったのか……
どうして気づけなかったんだ……
「失礼。ここ、よろしいかしら?」
「え?」
顔を上げると、了承する間もなくみゆきさんと同じ位の年齢の着物を着た綺麗な女性が、後ろの席から立ち上がって絢士の向かいの椅子に腰を下ろした。
「こんにちは。榊 絢士さん」
「なんで俺の名を?」
「私は美桜の伯母、大河内零華です」
心臓がギクッとして嫌な汗が背中を流れた。
なぜこのタイミングで?
「直ぐに行くから結構よ」
水を持ってきたウェートレスに笑って断って、彼女は俺を憐れむような瞳で見た。
「鶴吉屋さんの次男さんのお話は、いささか大袈裟でしたね。でも概ねは事実です」
鶴吉屋(つるきちや)とは神宮寺の実家の和菓子屋
どこから話を聞いていたんだ?
まさか、神宮寺は……
「鶴吉屋さんは何もご存知ありませんよ」
「どうして……」
「そんな顔をしないで頂戴、あなたの事は既に色々調べさせてもらってます。もちろん今日ここへ来ることもあなたが招待状の返事をした時から」
「どうやってそんな事」
「本気でお聞きになりたい?」
「いや、結構です」
「そう。あなた賢い方のようね」