猫と宝石トリロジー①サファイアの真実
それは伯母さ?からの忠告だった。
「くそっ」
にわかに信じがたい不幸話よりも、こっちのがよっぽどダメージが大きかった。
「麻生家の総資産なんて興味ない!」
その他に大河内も含めた美桜の持つ財産とそれに伴う果たさねばならない義務と責任が淡々と綴られていた。
そこで気づいた。
時々、俺よりも兄貴とのチャリティーやらパーティーを優先されたのは、こういう事だったのだと納得した。
ああ、物臭兄貴がタキシードをわんさか持っていたのもそのせいか。
「何がよく検討しなさい、だ」
伯母さんはこう言いたかったのだ。
あなたはこの先一生、榊 絢士ではなく美桜の夫として生きていくことになる、その覚悟ができるのか?
だから、こんな情報をよこしたのだ。
美桜を愛している気持ちに偽りはない。
ならば答えは出ているはずじゃないか……
絢士は最後のページを開いて、それを思いきり壁に投げつけた。
資料の最後には、たぶん伯母さんであろう人の字でこう書かれていた。
麻生家はあなたを温かく迎えるでしょうそして周りからの嫉妬や嫌がらせに耐える代わりに、好きな様にお金を使えるはずです、あなたはそれで満足できますか?
「金なんて要らねぇよ!」
絢士は髪をかきむしった。
「ちくしょう……」
彼女の伯母さんの忠告は最もだ。
美桜に悲劇が起きないかと心配しながら、決められた道を彼女の夫として歩くだけの人生なんて、俺には無理だ。
冒険も宝探しも色褪せてしまうだろう
ならば、どうしたらいいんだよ……
「はあ……」
深いため息がこぼれた。
俺たちは所詮違う世界の人間だったんだ
窓の外が白んできた頃、考えても考えも出てこない答えに絢士はそう思うしかないのだと、自分に言いきかせているうちに眠っていた。